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ジャン=フィリップ・コラール
ニューヨークでウラディミール・ホロヴィッツと親交があったそうですが、彼も《クライス
レリアーナ》の伝説的な録音を残していますね。シューマンの演奏に関して、彼から助言
を受けたことはありますか?
ホロヴィッツが自宅で――とりわけリストのピアノ・ソナタを――練習する場に居合わせると
いう光栄に浴しましたが、不思議なことに、特に助言は得ていません。ホロヴィッツは、間近
に迫っているコンサートで弾く作品を、すすんで私の前で演奏してくれましたが、自らの芸
術の奥義については頑なに語りませんでした。天才ホロヴィッツは、ピアノの前に座る前か
ら脳内で思い描いていた響きを、実際に鳴らすことが出来ました。こうした能力を“受け継
ぐ”ことはできませんが、彼と親交を深めていく中で、私の演奏が――シューマンの演奏も
含めて――影響を受けたと考えることは可能でしょう。もちろんホロヴィッツは、シューマン
の演奏の奥義についても口を閉じました。実際、ピアノ演奏において私が最も関心を寄せ
ているのは、サウンドです――奏者はどのように音を出し、聴き手に届けるべきなのか?こ
の点でシューマンの音楽は、ドビュッシーやフォーレの音楽と並んで、この上ない見本とな
ります。私は今後、パリのエコール・ノルマル音楽院に新設されたアカデミーで、フランス音
楽を教える予定です。友人のピアニストたちと協力しながら、これまで私が受け継いで体得
してきたことを、後進に伝えていけたらと思っています。