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ロベルト・シューマン _
幻想曲 ハ長調 / クライスレリアーナ
《幻想曲 ハ短調 作品17》
新進気鋭のヴィルトゥオーゾ・ピアニストであったクララ・ヴィークに熱烈に恋したシューマ
ンは、彼女の父フリードリヒ・ヴィークに
2
人の仲を猛反対され、激しい苦悩にさいなまれ
た。
1836
年、シューマンのピアノの師であったヴィークは、
2
人を1年にわたって引き離した。
この時期にシューマンが書いた作品はいずれも、クララと結びついている(彼女の不在、再
会を待ち焦がれる辛い日々)。実は《幻想曲作品
17
》は、リストがベートーヴェンの没後
10
年
を記念する碑をボンに建立しようとした際に、これに賛同したシューマンが書き上げたもの
である。幻想曲という大規模な形式によって揺るぎない成功を収めたこの作品(全
3
楽章)
は、やがてピアノ・レパートリーの重要な指標、さらにロマン主義的精神の象徴として、重き
を成すことになる。長大な第1楽章(“全く幻想的に、そして情熱的に演奏すること - 昔語り
の調子で”)は、「ソナタに準ずるもの」(マルセル・ボーフィス)として、もっとも発展させられ
た、豊かな内容を誇っている。曲調は激しく、音楽の流れもたびたび中断されるが、それで
も熱を帯びた緊張感が、冒頭の「クララへの長い愛の叫び」以降、ずっと維持されていく。こ
れを一時的に遮るのは、ベートーヴェンの《遥かなる恋人に寄す》――リストはこの連作歌
曲のピアノ編曲版を残している――から引用された旋律だけである。この引用は、作品の
献呈者リストと、クララ(彼女は文字通り“遥かなる恋人”だ!)への二重のオマージュと言え
るだろう。最後には希望の光が差し込むが、それは純粋に、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ
作品
111
への敬意かもしれない。作品
111
においても、静かな夜の賛歌のように、鍵盤の低音
域で曲が終結することを思い起こそう。