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フィリップ・ビアンコーニ

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P.B.

 私のリサイタルのプログラムには常にドビュッシーが入っているわけではあ

りませんが、常に彼の音楽は弾いています。公共の場で弾かずとも、自分の楽し

みのために引っ張りだして弾きます。ブラームス、ベートーヴェン、シューマンな

どを深く探求したあとドビュッシーに戻って、その自然さや、音色の持つ見事な

官能性などを再び見いだしています。私にとってドビュッシーは常に官能で綴ら

れていた作曲家です。しかし、この快楽的な性格のために、長い間、彼の音楽の

深みや、全く素晴らしい音楽語法への探求を感じ取ることができなかったように

思います。

弾く時も聴くときも、彼の音楽がもたらすほとんど身体的とも言える喜び

―こ う言いながらオーケスト ラ曲や『ペレアスと メ リザンド 』なども思い

浮かべているのですが―に加えて、以前よりももっと彼の音楽に感動する

ようになりました。

その変化の原因は何ですか。

P.B.

 若いときにはわからなかった、ドビュッシーの暗い部分をだんだんと意識

するようになったことでしょう。隠れた苦悶が常につきまとっているのです。この苦

悶は『西風の見たもの』で爆発しています。『仮面』もとても暗い影の漂う曲です。

『雪の上の足跡』では、苦悩の別の一面が鮮烈に表れています。しかし、明るい

作品の中にも、底から水面にわき上がってくる泡のように、根底にある苦しみが

顔をのぞかせていることがあると気付くようになりました。そのことがなぜこれほど

までに心に触れるのかと問いかけ、理解しようと試みた結果、自然、光、風、雲の

動きなどに対してドビュッシーがもっていた驚嘆にあふれたビジョンには苦悩が

伴っているのではないかと思ったのです。物事のはかなさや移り変わりが、これら