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名ヴァイオリン奏者ニコラ・ドートリクール氏に貸与中の
ストラディヴァリウス「シャトー・パップ・クレマン」について
私が
2011
年に一挺のストラディヴァリウスを入手したのは、人の目に触れぬ所にしまってお
くためではありません。この楽器の高貴さ、この楽器がもつ抒情的かつ重厚な独特の音色
を、人々と分かち合うためです。このヴァイオリンは私の財団「ベルナール・マグレ文化研究
所」を通じ、ボルドー・アキテーヌ国立管弦楽団の若きコンサートマスター、マチュー・アラ
マ氏に貸与されていました。その後私は、上述の重要な使命を引き続き遂行するため、ニ
コラ・ドートリクール氏を使用者として選びました。氏は同世代中、最も優れたフランス人ヴ
ァイオリニストのひとりと評される存在です。
ストラディヴァリウスは、伝説的な、そして歴史上もっとも有名な楽器製作者の名を負ってい
ます。ヴァイオリニストにとって、アントニオ・ストラディヴァリが製作した楽器を奏でることは、
至上のヴァイオリンを演奏することを意味します。ストラディヴァリは、自らが製作した楽器を
新たに購入した者が、これに“ニックネーム”をつけることを望んでいました。
そうして私は、最高の格付けである“グラン・クリュ・クラセ”を与えられたグラーヴ(ボルドー)
のワイナリー「シャトー・パップ・クレマン」の名を、このヴァイオリンに与えました。日々、この
楽器と自らのワイナリーを結び付けて考えずにはいられません。とはいえその理由は、“命
名”だけにとどまるものではないのです。