

ターリヒ弦楽四重奏団
33
第
1
楽章「アレグロ」は快活な行進曲のリズムで始まる。行進曲はそのあとに次々
と連なる楽想によって消されるが、これらの楽想は行進曲が戻ってくるのをうまく
遠ざけている。
次の「ロマンツェ」のテーマは、オペラ『後宮からの誘拐』第
2
幕のベルモンテの
有名なアリア「喜びの涙が流れる時」からとられている。童謡のようなメロディは
昔の歌のごとく展開されていくが、情熱的な問いかけや、子守唄の記憶なども聞こ
える。
「メヌエット」(アレグレット)は、純粋なバロックの伝統的ダンスにインスピレ
ーションを受けている。たくましく男性的な最初のテーマで踊りが開始する。洗練
されたフレージングの第
2
テーマには熟慮する時間があり、女性的。中央のトリオ
は、民謡的メロディで聴く人を楽しませる。曲の調子は慇懃である。お互いに繰り
広げられる誘惑術は繊細で、第
1
テーマが戻ってくる時にはさらに控えめになって
いる。
フィナーレの「ロンド」(アレグロ)は、魅惑的な熱であり、一種の常道曲である
が、第
2
テーマは故意にぎこちない。それは、人間の複雑な感情を、ヴァトーの描
く音のない『艶なる宴』を、音楽に置き換えるかのようである。