

チェコ国民主義の台頭はベルドジヒ・スメタナの人となりを根本
から変え、彼の音楽全体に影響を与えた。彼だけがこのような国
民主義熱を表現した作曲家ではなかったにしろ、このときには
まだ存在していなかった国民主義芸術創造の先駆者として最も
光る存在だった。チェコ特有の音楽語法の基礎を築く上で、スメ
タナと彼の同時代の作曲家たちは、バッハからブラームスまでの
ドイツ音楽だけでなく、モーツァルト以降のオーストリア系の音
楽や、リストやワグナーの、見事な吸引力を持つ書法を、短期間
のあいだに吸収していった。
スメタナは作曲家の中ではじめて、ボヘミアの音楽の源にあるも
のに興味を示し、オペラの台本にチェコ語を使用し—オーストリ
ア当局にはこれらの台本は挑発的と映った—、この地方に伝わ
るリズムやメロディーを探し求めた人物である。地方色をすべて
自分で作り上げたドヴォルザークとは反対に、スメタナは民衆的
表現の現実と自然さの中に筆を浸した。声楽〔オペラ〕作品、そし
てそれ以上に、おそらくリストの技巧性にひけをとらないであろ
うピアノ音楽は、彼が革命的な音楽家であったとともに、いにし
えの音を探し求める音楽家でもあったことを示している。