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シューベルトのト長調のソナタを選ばれましたが。
これは全く素晴らしい作品ですが、演奏は大変に微妙です。ある意味では、この音楽には
悲劇はありません。第1楽章の「モルト・モデラート・エ・カンタービレ」は幻想曲ですが、演
奏家自身がまさに「幻想曲」であることを感じ取らなければ、その性格を表現することはでき
ません。ピアノ曲ではありますが、シューベルトはピアノを「忘れて」いると思われます。ピア
ノという楽器の音響的制約を完全に超えているのです。例えば、第3楽章の「メヌエット」は
それにあわせて踊ることのできないワルツのようなものです。最終楽章もダンスですが、早
い速度にかこつけてウィーン的な面を失ってはいけません。歌、つまりドイツ歌曲にも通ず
るこの自由なダンスをどのように演奏で伝えてゆくか、じっくりと考えなければならないでしょ
う。
モーツァルト/ベートーヴェン/シューベルト