Background Image
Previous Page  23 / 44 Next Page
Information
Show Menu
Previous Page 23 / 44 Next Page
Page Background

パスカル・アモワイエル

23

アルカンの作品には、精神性や宗教性といったものはありますか。

あります。彼のあしあとは、リストの人生と似たところがあります。若かりし頃のアルカンは陽

気で、素晴らしいサロン・ピアニストとして誰からも好かれていました。彼がなぜある日を境

にピアノを弾かなくなり、沈黙に閉じこもって音楽生活から引退したのか、よくわからないの

です。人間嫌いで、毎日、聖書の節を翻訳していたと言われています。彼自身の世界と社

会とがふたつに分離しているのです。

大ロマン主義者として、絶対なるものを作品に取り込もうとしていますね。

そのとおりです。彼は、いろんな面でロマン主義者でした。幻想的なもの、過去の作品、形

而上的なもの、自然などに引かれていました。これらの要素は、『大ソナタ』に見て取ること

ができます。ファウスト的なインスピレーション、死への考察、厳格な形式などです。この作

品は喜びから始まって無に向かっており、楽章を経るにつれてテンポが遅くなりますが、そ

れは四つの年代を示しています。

20

代、

30

代、

40

代、

50

代です。

最終楽章はアイスキュロスのプロメテウスに霊感を得ており、ベートーヴェンを見つめた絶

望的な瞑想ですが、死を音楽的に読んだユニークな作品です。リストの作品もそうですが、

そこには魂の救済はないのです。よく、この楽章は、光を探しはすれ闇しか見つけることが

できないヨブの悲嘆にヒントを得ているのではないかと語られます。ユダヤの典礼音楽を切

望していたアルカンは、晩年には、聖書の全節に音楽をつけなかったことを後悔していたと

言います。いずれにせよ、彼は書法において、音楽に常に意義を探すことにおいてかなり

進歩的で、和声と音の境界を探求し続けていました。

彼の音楽では、休符も重要な要素です。そういう意味では彼は神秘主義者でしょう。時に

は、音楽的に何も起こらない時間というのがあって、彼は他の場所に答えを求めているよう

です。