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シャルル=ヴァランタン・アルカン

アルカンの作品は演奏が非常に難しいという伝説がありますが。

それは事実です。そしてその困難さは多岐にわたっています。指の動きという面での技巧

的な困難は、極端ではありますがどれも動機のないものではありません。それは、大きく手

を広げたり、非常に広い音程間を跳躍したり、きわめて速い部分があるなど、目がくらむよう

な困難さがあります。

演奏には、精神的にも身体的にもたいへんな忍耐力を要求されます。書法は常に変化し

ていて、繰り返しがあっても決して全く同じではなく、いくつかのテーマが重なっている部分

が多く見られます。アルカンの作品のほとんどはピアノ曲ですが、彼がピアノに持っていた

ビジョンはピアノという楽器の枠を大きく超えています。ピアノのための交響曲や、ピアノソロ

のための協奏曲などを書いたくらいですから。

さらに、アルカンは、記譜法においても技巧派でした。楽譜にはとても多くの指示があって、

時には現実的に弾けないと思うくらいです。ベートーヴェンもそうでしたが、アルカンはほと

んどマニアックと言っていいくらい丹念でした。ひとつひとつのテンポや、速度をあげるとこ

ろを詳細に記し、たくさんの引用を挿入し、注釈も多く、まるで重い鎧で武装しているようで、

常に音楽的な意図にからんで指はありそうもない動きを余儀なくされ、その音域は、高音部

と低音部で極端に広くなっています。彼が持っていたピアノのビジョンは、シンフォニー的

なのです。彼はオーケストラのような効果、それも、それまでになかったような効果まで狙っ

ていました。現代のピアノで、エラール・ピアノにあったバランス―つまり、アルカンにとって

とても大切だった、極端に広い音域を同時に弾いてなおかつ明確さを出すこと―を見つけ

るのは、骨の折れることではありますが、とても惹かれます。