

ターリヒ弦楽四重奏団
33
弦楽六重奏曲第1番 変ロ長調 作品
18
には、このようなブラームスの迷いが表れ
ており、
1860
年
10
月
20
日、ハノーヴァーでの初演の際には、慎重を期して、著名
なヴァイオリン奏者ヨーゼフ・ヨアヒムが集めた演奏家たちにその演奏をゆだねて
いる。
曲はすぐさま人気を博した。ドイツ古典派に範をとった、爽やかさや幸福感に満ち
た音楽は、聴衆を魅了した。ブラームスの筆にかかると、古典派にあるようなディ
ヴェルティメント的な『六重奏』のイメージはなくなり、曲はまったくロマン派的
で、息の長い展開や、変則的なリズムや雰囲気に満ちたフレーズを放棄しないかた
ちで作曲されている。この作品は「春の六重奏曲」とも呼ばれるが、この名前に
は明らかにベートーヴェンへのオマージュが表現されている。ブラームスが作曲に
多くの努力を費やしたことは、曲が持つ優雅さ、繊細さ、そして自然な様子からは
感じられないが、それは、手稿をヨアヒムに再読してもらったことにも関係してい
る。ヨアヒムは、演奏をより自然にするべく、大がかりな、しかし不可欠な楽譜の
変更を提案し、ブラームスは、ヨアヒムの適切な忠告に従ったのだった。