38 ヴィルトゥオージ 本盤のプログラムは、バロック音楽やロマン派音楽から現代曲まで多岐にわたり、さらに ジャズと民謡も含んでいます。本盤を貫く糸のようなものはありますか? たとえば、根底 には何らかの共通のムードが流れているのでしょうか? トマ·ルルー:デュオという演奏形態と私たちの演奏曲目がもつ親密な性格は、本盤の録音 の方針によって強められています。聞き手が感じる距離の近さと、二人の音色の溶け合い が、際立たせられているのです。私たちは、それによって生まれる独特なムードこそ、本盤の 特質となると考えていました。 ロマン·ルルー:私たちが手がけた編曲作品や、私たちが委嘱した作品には、音色、フレージ ング、アーティキュレーションの面で実験的な手法が凝らされています。バッハの作品、そし てヘンデルの作品にもとづくハルヴォルセンの《パッサカリア》は、今回のプログラムの要で す。一連の変奏が繰り広げられる《パッサカリア》は、壮大なフレスコ画のようです。マニュエ ル·ドゥトルランによる編曲は、原曲に一切の変更を加えていません。とはいえ私たち演奏者 のねらいは、原曲を模倣することではなく、原曲を深く掘り下げ、そこに新たな光を当てるこ とでした。 本盤には、別の側面もはっきりとみとめられます——歌心あふれる“カンタービレ”な演 奏スタイルは、控えめに言っても、かなり斬新です。それは両パートに指摘できます。トラ ンペットの音色はバッハのカンタータやオラトリオのサウンドを彷彿させますし、テュー バのための“ア・カペラ”作品——とりわけ、隣り合って並ぶ《即興》とピアソラの《エチュー ド》——は、先例のない声楽的な性格を聞かせます。 ロマン·ルルー:かねてから私は、トランペットは人間の声に近い楽器だと考えてきました。テ ューバのフレージングも、トマが吹くと声楽的に聞こえます。原曲の和声を尊重しつつ、カン タービレな旋律線がつねに自発的に生じるようにしなければならないのは、私たちにとって 難題です。
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