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私が最初にピアノを師事したジャック・ブロシュ先生(ラザール=レヴィの弟子

にあたる)がガブリエル・フォーレの音楽をこよなく愛していたことは、じつに

幸運だった。子どもの頃、私はブロシュ先生が弾く《主題と変奏》や《夜想曲》、《

舟歌》、《即興曲》を聴く機会に恵まれた。やがてパリ国立高等音楽院で、私のフ

ォーレへの情熱を維持してくださったのは、ドミニク・メルレ先生である。ロジ

ェ=デュカス(フォーレにもっとも近い存在だった音楽家である)のもとで学ん

だメルレ先生は、私と《バラード》を引き合わせてくださり、さらに晩年の《夜想

曲》や第4番・第5番の《即興曲》など、今日もなお畏敬の念を抱かずにはいられ

ない後期の作品へと、私を導いてくださった。その後、私のレパートリーには、フ

ォーレのほぼすべての歌曲と室内楽作品が加わることになる。常々そうである

ように、ある作品を成すあらゆる層の内部に入り込んでいく試みは、その精髄、

色彩、香り、イディオム、理想を再構成し、ひとつの世界を再創造するよう促して

くれる。そうして私たちは、作品の進化や特異性、さらに作品のインスピレーシ

ョンの源を、よりはっきりと把握できるようになるのだ。

インスピレーションに関して言えば、フォーレの《バラード》の優美なピアニズ

ムは、ショパンが愛してやまなかった黒鍵の響きを彷彿させる(《子守歌》、《舟

歌》、《練習曲》作品10-5、《即興曲》作品36と作品51)。フォーレの《夜想曲》第

2番の中間部は、シューマンの《色とりどりの小品》の1曲から派生しているよう

に感じられるし、《夜想曲》第4番の中間部は、ワーグナーの《トリスタンとイゾ

ルデ》第2幕の恍惚を思い起こさせる。

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フォーレ