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ターリヒ弦楽四重奏団

33

ピアノ五重奏曲ト短調 作品

57

には

5

つの楽章があるが、それは非常にバランスのと

れた

3

部構成となっている。最初の

2

つの楽章は続いて演奏され、プレリュードとフ

ーガとして書かれている。次にスケルツォが続き、さらにまた

2

つの楽章がインテ

ルメッツォとフィナーレとして続けて演奏される。このような厳格な形式は、しっ

かりとしたネオ古典主義、緻密に構築されたドラマ性、そして深い叙情性のあいだ

で進展してゆくこの『五重奏曲』が放つ充実感と無関係ではあるまい。

作品は、ピアノによる壮大なメロディーで始まる。「プレリュード」の中央部のエ

ピソードはより軽いが、この後には最初の雰囲気がさらに激しさを増して戻ってく

る。次の「フーガ」は、民衆音楽に着想を得て構築されている。単なる様式的なエ

キササイズなどからはほど遠く、「ロシアの民衆の歌と西洋の対位法の結合」を望

んだ「ロシア音楽の父」グリンカの夢に応えたものとなっている。胸が裂けるよう

なこの「アダージョ」楽章は、ピアノが入るたびにその強さを増してゆく。この雰

囲気は、嘲笑的で奇妙な「スケルツォ」によって突然中断される。ここではピアノ

が故意に野卑なメロディを聞かせるかたわら、弦は執拗なテーマを鳴り響かせる。

スペイン風の中央部に続いて、強迫的ともいえるテーマが誇り高く再現されるが、

これによってこの『五重奏曲』の中央部分で左右対称の書法が強調される。

効果的で常に読み取りやすいエクリチュールによる『五重奏曲』は、若き日のショ

スタコーヴィッチが試みた実験的作品に完全に背を向けているのだが、この「スケ

ルツォ」には、彼が書いた最初のバレエ数曲にある伝統打破の精神がみられる。「イ

ンテルメッツォ」では再び、考え込んだような雰囲気に戻る。セルゲイ・プロコフ

ィエフが少々陰険に「ヘンデル風」と呼んだ

*

低音部が、深い悲しみに満ちたとめ

どないメロディーとともに進む。「フィナーレ」では、「プレリュード」のテーマ

を、「スケルツォ」のテーマにからませて古典的に再現させることで、ほとんど陽

気ともいえる和解的な形で曲を約説している。