34 PIANO TWINS 《海》や《ラ・ヴァルス》や《牧神の午後への前奏曲》のような有名曲をピアノで演奏するさ い、管弦楽版とは距離を置くべきでしょうか? ウィレム・ラチュウミア:私はいつも、まず管弦楽版からインスピレーションを得てから、他の 音色や響きを自分なりに想像すべきだと考えています。たとえば《牧神》のフルートの旋律を 弾く場合、ある種の軽やかなタッチを探求し、ピアノによって独特な響きを創り出す必要があ ります。結局のところ私たちは、ピアノ版を奏でるとき、世に知られている管弦楽版とは異な る新しいオーケストラの音世界を生み出します。既存の管弦楽版を模倣する代わりに、その コンセプトを受け継ぐのです。 ヴァネッサ・ワーグナー:ピアノが、オーケストラと全く同じ音色を響かせることなどあり得 ないと肝に銘ずる必要があります。つまりピアノ版は、もはや管弦楽版と同一の作品ではな く、その曲に別の次元を付与するものです。大編成のオーケストラの演奏では認識しにくい 要素をピアノ版が際立たせることもあり得ますし、反対に、ピアノが曲の何らかの要素を弱 める場合もあるでしょう。編曲者は巧みに妥協を繰り返しながら、真に独創的な作品を生み 出すに至ります。テンポの選択が版ごとに異なることもあるのが、その好例です。ピアニスト と、120人のオーケストラ奏者では、テンポ設定の条件が違いますから。 ウィレム・ラチュウミア:本盤に《海》を収めるに当たり、ドビュッシー本人による4手連弾版 ではなく、カプレによる見事な2台ピアノ版を選んだのも、この有名曲に新たな光を当ててみ たいと思ったからです。そもそもドビュッシーは、友人カプレの版が最上の編曲だと考えてい ました。
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