LDV97
本盤には《ルーマニア奇想曲》とともに、ショーソンの《詩曲》とラヴェルの《ツィガーヌ》も 収められています。選曲の意図についてお話しください。 ショーソンの《詩曲》を選んだのは自然の成り行きでした。エネスクが、この曲を絶えず演奏 していたからです。皆が口々に、彼の《詩曲》の演奏はとにかく素晴らしかったと証言していま す。私自身、ヴァイオリンへの愛の告白になぞらえられる《詩曲》が大好きです。ショーソンの あらゆる作品と同様に奥深く多彩な《詩曲》は、真の独自性と誠実さを併せもっています。だ からこそエネスクも《詩曲》を愛奏したのでしょう。彼は、ラヴェルの《ツィガーヌ》も頻繁に演 奏していました。《詩曲》がもつ官能性と、《ツィガーヌ》の知性や顕著な客観性は、私が先ほ ど述べた作曲家エネスクの二面性を体現しています。 《ツィガーヌ》という曲名は、ルーマニアと関係の深い民族音楽をじかに指し示していま す。ルーマニアには、多数のロマ民族(ジプシー)が暮らしています。ラヴェルの《ツィガー ヌ》には、じっさいのロマ音楽が取り入れられているのでしょうか? ラヴェル自身が、実在のロマ音楽を用いてはいないと明かしています。彼が書いたこのヴィル トゥオジックな作品は、ロマ音楽の精神にのっとってはいますが、本物のジプシー音楽とは かけ離れています。それは純然たる“ラヴェルの音楽”であり、その点において秀逸な作品で す。エネスクの場合は、できるだけ“本物”に忠実であろうとするアプローチによって、伝統音 楽の再現を試みました。しかしラヴェルは奏法の点においても、自身の精神と感性によって 知覚したものを用いながら、紛れもない“ラヴェルの音楽”を作り上げています。言うなればそ れは、ロマ音楽の一つの解釈であり、ロマ音楽のイメージの喚起なのです。 28 ショーソン / ラヴェル / エネスク
RkJQdWJsaXNoZXIy OTAwOTQx