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26 《ルーマニア奇想曲》は、エネスクの作品群の中でも特異な存在です。彼が1925年から 1949年まで、長い年月をかけて書き進めたこの曲は、ついぞ完成しませんでした。《奇想 曲》は、のちにエネスク博物館(ブカレスト)のアーカイブの中から発見され、1990年代に 作曲家コルネル·タラヌによって補筆されました。今回《奇想曲》を選んだいきさつをお聞か せください。 《奇想曲》は華麗な作品です。この曲を初めて演奏したとき、すぐに“録音してみたい”と思い ました。タラヌの見事な補筆作業を経て完成した音楽ではありますが、そこにはエネスクの 霊感と魂がもれなく詰まっています。タラヌは、自身の活動の多くをエネスクの作品の“発掘” に割き、それらを仕上げました(オラトリオ《亡霊》、《交響曲第5番》。)エネスクは《奇想曲》 に執着していました。というのも彼は、1925年から1949年まで、この曲を書きつづけたので す。そのため草稿が山ほど残されており、ある楽章には異なる3つの稿が存在します!エネス クが完全にオーケストレーションを終えたのは20ページ分です。タラヌは第2·第3楽章に関 しては、さほど手こずらずにオーケストレーションを仕上げています。すでに音楽自体は完成 されていたからです。厄介だったのは、未完のまま残された第4楽章です。初演を任されたヴ ァイオリン奏者シェルバン·ルプーは、エネスクとタラヌの二人の手になる《奇想曲》の重要性 を見事に説いています。《“ ルーマニア奇想曲》は何よりも、このルーマニア人ヴァイオリニス トが達した極致にして、彼のポートレート(肖像画)であり、彼の芸術と魂を讃えている。それ は、ヴァイオリンのこの上ない複雑さと超絶技巧を生き生きと伝えるきわめて貴重な記録で あり、19世紀ルーマニアのヴァイオリン奏者たちを特徴づける豊かな表現手段を讃えても いる。” ショーソン / ラヴェル / エネスク

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