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ダヴィド·グリマル / レ·ディソナンス 23 エネスクの存在は、現在のルーマニアでも、音楽界の内外で強力かつ象徴的なオーラを放 っているのでしょうか? まさにそのとおりです。エネスクは、ルーマニアで次々に音楽組織が設立された時代に流星 のごとく現れました。19世紀後半に、ルーマニア初のオーケストラや歌劇場が産声を上げた のです。生まれたばかりの国民感情を――“接合剤”のように――もっとも強く束ねたものの 一つが音楽でした。ルーマニアは、国民的英雄の一人がクラシック音楽家である、世界でも 珍しい国の一つです! その現象の背景には何があるとお考えですか? ルーマニアの人びとは、自分たちの文化遺産と歴史に大きな誇りをもっています。エネスク の音楽は、ルーマニアとその民族の魂を体現しています。いっぽうで彼は、20世紀初頭の同 国の黄金期、つまり大ルーマニアとも関連づけられており、当時を語る上で避けては通れな い人物です。作曲家·演奏家としてのエネスクの国際的なキャリアは、他のルーマニアの音楽 家たちがかつて得たことのなかった大きな影響力を彼にもたらしました。彼から薫陶を受け たリパッティもユーディ·メニューインも、エネスクの驚異の音楽的水準の高さについて証言 しています。彼らによれば、エネスクは音楽の化身であったそうです。現存する演奏録音は、 彼の美しく豊かな表現を私たちに伝えています。
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