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35 シューベルトの伝記は、彼の音楽を理解するための鍵のいくつかを提供してくれます。彼 の音楽的な美意識は、ウィーン・ロマン派のただ中で、どのように特徴づけられるとお考 えですか? 私は、シューベルトの音楽世界は二つの重要な“柱”のあいだに位置すると考えていま す――つまり、ヨーゼフ・ハイドンとアントン・ブルックナーのあいだに。本盤に収めた未完 のハ長調のピアノ・ソナタ“レリーク”を例にとってみましょう。第2楽章はハイドンのヘ短調 の変奏曲の延長線上にあります。ハイドンの高尚な書法は、私にはモーツァルトの書法より も――少なくともピアノ独奏曲に関しては――充実しているように感じられます。このシュ ーベルトのハ長調のソナタでは、短調と長調で書かれた相反する変奏の交錯、恐ろしいま でに悲しい曲調、そしてそれとは対照的な無垢な明るさが展開されていきます。 いっぽう、1828年に書かれた変ロ長調のソナタは、葬送行進曲である緩徐(第3)楽章に おいて不意に立ちすくみ、祈りを捧げます。葬送行進曲といえば、ショパンは10年後に、変 ロ短調のソナタをほぼ無調のフィナーレで締めくくることになります。しかし私の持論では、 シューベルトはすでにD595の〈アンダンティーノ〉楽章において、ショパンよりもいっそう“ 先へ”行っています。音楽言語の点のみならず、その荒々しい表現の点においても……。ショ パンは、シューベルトの音楽をいくらか知っていたのでしょうか?私はパウル・バドゥラ=ス コダ先生にそう質問したことがあります。しかし確かなことは今も分かりません。 ジャン=マルク·ルイサダ

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