LDV93
34 “苦悩”とは具体的に何でしょうか? シューベルトは、言うなればウィーンの犠牲となったのです。ウィーンはかねてからずっと、 外部からこの街にやってくる天才たちから恩恵を受けてきました。シューベルトは、確かに 親友には恵まれました。フランツ・フォン・ショーバーとヨハン・ミヒャエル・フォーグルは、教 養ある人びとや音楽愛好家たちと交わる機会を時おりシューベルトに提供しました。それ でもシューベルトの人生は、苦悩と隣り合わせにありました。自身の家族や情動や仕事をめ ぐる苦悩と……。私は、彼の音楽には潜在意識的なメッセージが込められていると確信し ています。それは彼自身の存在をさらけ出しているのです。強迫観念的なリズム、多義的な 和声、交錯する転調、休符がもつこの上ない重要性、至るところに現れるユニゾン……それ らすべてが、桁外れに恐ろしい孤独の中へと演奏者を沈めます。彼の音楽は、かみそりの刃 のように心を突き刺します。シューベルトの音楽を弾くたびに、私は茫然自失するのです。 シューベルト / D.840 & D.960
RkJQdWJsaXNoZXIy OTAwOTQx