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ジャン=マルク・ルイサダは、ロマンティシズムの声を――シュー ベルトの全作品に注がれているこの魂の声を体得している。《ソ ナタ第15番ハ長調》では、22歳の若き作曲家の筆からあふれ出 た旋律の数々が私たちを惑わせる。牧歌的な曲調の静けさにし ばしば呼応するのは、現実世界の苦悩と過酷さだ。いっぽう《ソ ナタ第21番変ロ長調》は、より悲劇的な世界をさらけ出す。なぜ ならシューベルトは、自身に残された時間がごくわずかであるこ とに感づいていたからだ。ジャン=マルク・ルイサダは、この上な く格調高く、反抗心と諦念が同居する作曲家の肖像画を描き出 す――時に饒舌で、時に口を閉ざそうとするシューベルトが、思 い出と無念の情の中にいくらかの慰めを探し求めるさまは、私た ちの心を強く揺さぶる。

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