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28 シューベルト︱『ロザムンデ』•『死と乙女』 第3楽章のスケルツォは、いささかメフィストフェレス的ですが、トリオでは喜ばしい新鮮 な空気が流れます。つづく終楽章〈プレスト〉は、夢幻的な騎馬行進を想わせます。 この“死のタランテラ”は、運命や宿命を表しています。ニ短調は、モーツァルトの《ドン·ジョ ヴァンニ》と《レクイエム》の主調でもあります。終楽章は、形式の観点からみて、もっとも演 奏困難な楽章の一つです。奏者である私たちは、さまざまなエピソードをまとめ上げ、一つ のモニュメントを築かなければなりません。 第13番『ロザムンデ』は、第14番とはまったく異質です。甘美さや官能性はもとより、そ の本来的な両義性や、音楽が含み持つ“空白”が、私たちの心を打ちます。第13番の曲調 は、冬というよりも秋を彷彿させます。第1楽章では、漠然とした憂愁があふれ出ます。 その曲調は、かなり鬱々としてさえいます。音楽の流れを中断させようとするフェルマータや 休符の使用が、不安を増長させるのです。これとは対照的に『死と乙女』は、常に音楽の流 れに付き従います。両義性は、シューベルトが何よりも好んだ長·短調のコントラストに反映 されています。第1楽章のかなり荒々しい展開部は、再現部に先立ち、ところどころで極度 の緊張状態に至ります。

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