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セドリック・ペシャ, フィリップ・カサール, ピアノ 47 テンポの決定に際しては、オーケストラ特有のアゴーギク(速度法)や“機動力の低さ”に 忠実であることも考慮したのでしょうか? セドリック·ペシャ : ガーディナーやアーノンクールらの、全体的にテンポの速い演奏を聞 くだけで、それぞれのオーケストラのテンポ設定が極端に異なることを意識させられます。 機動力の問題は、楽器のタイプや編成のサイズと密に関係しています。じっさい、アーノン クールら幾人かの指揮者たちは、響きを抑え、編成を著しく小さくすることによって、“オー ケストラの機動力の低さ”という前提そのものを見直しました。ベートーヴェンの交響曲の演 奏において、管楽器の数を2倍に増やし、時にマーラーの交響曲さながらに巨大編成のオ ーケストラを用いる伝統があるいっぽうで、 リストがこの編曲版を手がけた当時に主流だっ たオーケストラの編成を追求することもできます。 当然ながら、今回、ピアノの特性を考慮して設定したテンポもあります。この楽器では、オ ーケストラの種々の楽器や声と同様の方法で音を持続させることはできないからです。 た とえば第2楽章では、ピアノのダブル·エスケープメント·アクション(そして反復音に関しては 手首の柔軟性)で何とか対応できるテンポを選びました。ちなみに私は、もしも自分がオー ケストラの指揮者だったら、私たちが2台ピアノ版で採用したテンポを指向するだろうと思い ます。 そうは言うものの、演奏をめぐる全ての選択がそうであるように、大理石に刻まれ固定され た決定事項はひとつもありません。コンサートでは、かなり高い確率で、物事が流動的に変 化しますから……。
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