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44 ベートーヴェン/リスト, 交響曲第9番 この編曲版のどの部分が、とりわけ原曲の管弦楽書法に忠実でしょうか?  セドリック·ペシャ : ベートーヴェンの全交響曲の編曲という大がかりな作業に、リストは驚 くべき誠実さ、敬意、知性、感性をもって向き合いました。彼は、徹底的に原曲のオーケス トラの音色を尊重し、各曲の精神と音楽的内容をそのまま再現しています。じっさい、小節 数も原曲と同じですし、原曲への加筆は一切みとめられません。リストは、トレモロにおいて さえ――ただしこの技法は、いわば彼の音楽のトレードマークであり、時に仰々しくなりえま す――かなり控えめです。これに関して、フィリップと私は熟考しました。トレモロが大げさな 感情表現や冗漫な表現を招きうることを、リスト本人は意識していたのだろうか?と……。当 初、私たちは、原曲では弦楽器あるいは管楽器に託されている持続音が、ピアノではあま りに早く消えてしまうように感じられる際に、その一部をトレモロによって引き伸ばしたらよい のではないかと考えていました。しかし、この編曲版への理解を深めていく中で、私たちは それを断念しました。編曲作品を演奏する際に、細部に手を加え、より大きな自由を得たい という欲求を抱くことは、珍しくありません。たとえば、1オクターヴ下の音や編曲者によって 省かれた声部を加えるのは、正当な判断であるように思えます。しかしながら、原曲に忠実 なリストの“第九”を前にした私たちは、自分たちのアイデアを付け加えることはせず、彼の 編曲を何よりも真剣に受けとめ、彼が記した譜をこの上なく忠実に音にすることを目指しま した。この編曲版には、リスト自身の創作はみとめられません。それでも、2台のピアノへの 音の割り振りや、2パート間でモチーフを移行させる手法の中に、天才編曲家としてのリスト 特有の知性が垣間見えます。

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