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まずは、この編曲版が生まれた背景と経緯を振り返っていただけますか? フィリップ·カサール : リストは、かなり早い時期にベートーヴェンの一連の交響曲をピア ノ独奏用に編曲することに興味をもちはじめました。じっさい彼は、自身のコンサートのため に、1837年から1860年のあいだに全曲の編曲を手がけています。ただし彼は、独唱と合唱 をともなう第9番の編曲に関しては、当初から2台ピアノの編成を選びました。彼が1850年 に、この2台ピアノ版をハンス·フォン·ビューローとともに公の場で演奏した記録も残ってい ます。1864年、ブライトコプフは出版用に第1~8番の編曲の改訂をリストに依頼した際に、 彼に第9番のピアノ独奏版も注文しました。しぶしぶ承諾したリストは、第9番の第1~3楽章 のピアノ独奏版をブライトコプフに送りつつ、より完成度の高い2台ピアノ版の出版を提案し ています。しかし最終的にリストは、仕上がりに満足していないと書き添えて、不本意ながら 終楽章のピアノ独奏版を出版社に提出しました。 この巨大な編曲作品を録音するというアイデアは、どこから生まれたのですか? フィリップ·カサール : 2018年の段階で、2020年のベートーヴェン·イヤーをどのように独創 的かつ独自に祝おうかと考えを巡らせていた時に思いつきました。私としては、ベートーヴェ ンの全変奏曲や全32曲のソナタの演奏に挑むつもりは全くありませんでした。ある日、私は 偶然にミシェル·ダルベルトの録音――リストが編曲した田園交響曲――を聴きました。そ の時、第9番を取り上げるというアイデアがふと浮かんだのです。しかも、演奏される機会が ほぼ皆無でありながら、独奏版よりも――リスト本人が主張した通り――いっそう完成度 の高い2台ピアノ版で!すぐさまセドリックに、この案を持ちかけたところ、彼も強い興味を示 してくれました。

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