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38 ベートーヴェン が音声データのかたちであっても——素晴らしいオブジェであり、物事をとことんまで掘り下 げる機会を与えてくれます。そしてディスクに刻まれた音楽は、ずっと生き続けます。 できるだけオーケストラの演奏会にも足を運ぶようにしていますが、もっと頻繁に聴きに行 けるといいですね……。 父からは、ジャズの魅力を教えてもらいました。彼には感謝しています。ジャズは、音色の 面でもリズムの点でも大いに参考になりますし、私たちクラシック演奏家が必ずしも身につ けてはいない“スウィング”に触れることもできます。一方で私は、昔からロックのファンでも あります。レディオヘッド、ピンク·フロイド(形式について語る上で避けられません!)、そし てクイーン。私たちのような、いわゆる芸術音楽を演奏している者たちも、クイーンの《ボヘミ アン·ラプソディ》から多くを学ぶことができます。 演奏中、歌っていますか? いいえ。歌ってはいませんが、どうやら演奏中の私は喘いでいるそうです(笑) 歌曲もお聴きになりますか? はい……しかも幸運なことに、私の兄(原注:ヴァイオリン奏者ピエール·フシュヌレ)が、声 楽の世界への扉を開いてくれました。その後、自分でも興味を広げていったのです。クリス チャン·フェラスのヴァイオリンもそうですが、マリア·カラスの声、ジェラール·スゼーが歌うフォ ーレの歌曲、現代ですとマティアス·ゲルネ……彼らは、誰の演奏であるかすぐに分かる風 合い、音色……一言でいえば個性を具えています。 実をいうと、私自身はイタリア·オペラよりも《ヴォツェック》や《ばらの騎士》に惹かれます。劇 場作品への興味は程々でして、言葉そのものにもあまり関心はありません。私は何よりもま ず、音楽を聴きます……
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