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テオ・フシュヌレ 37 演奏家には他者が必要です。音楽を誰かと一緒に分かち合わなければなりません。“スフ ォルツァンド”を例に取ってみましょう。この、言葉では表現できかねるアクセントの真の意 味は、弦楽器を通じて体験しないかぎり理解できません。また、演奏者一人一人が、ベート ーヴェンの音楽と独自の関係を築いています。室内楽を介してそれを互いに伝え合うこと は、この上なく有意義で豊かな経験だと思います。 尊敬している、あるいは影響を受けた演奏家についてお話しください。 ヴィルヘルム·ケンプから強い影響を受けています。しかも、彼が演奏前に《ハンマークラヴ ィーア》について語っている動画があるのですよ。Youtubeで観ることができ、とても参考に なります。ジャン=フレデリック·ヌーブルジェ先生のベートーヴェンの演奏も大好きです。ア ンドラーシュ·シフの解釈にも魅了されました。もちろん、レパートリーによって答えは変わり ます。ミケランジェリの完璧主義……あるアイデアを徹底的に掘り下げ、それを作品に投影 させるために全力を尽くす姿勢は、感動的です。確かに彼のレパートリーは狭いですが、 彼は全ての演奏において最高の域に達していました。 彼とは対照的に、リヒテルは、どんな曲も弾きこなすピアニストでした。あれほど幅広いレパ ートリーを有していたこと自体が、驚異的です。彼は晩年まで、新たなレパートリーに柔軟 な態度を示しました。彼は私にとって、演奏家としての生き方や職業倫理の面において、 模範的な存在です。 ふだん音楽はお聴きになりますか?どのようなジャンルの、どのような作品を、どのように 聴いていますか? はい、音楽を聴くのは大好きですし、今も新しい音楽と出会い続けています。必ずしも自分 が演奏している楽曲を聴くわけではなく、知られざる名曲を発掘するのも好きです。友人や 同僚演奏家たちがアルバムをリリースすれば、すすんで聴いています。ディスクは——それ

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