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36 ベートーヴェン ベートーヴェンは、極めて簡明な素材を用いることで、自由を手にしています——シンプル な3度音程が、作品全体を駆け巡ります。つまり一つの制約から、驚くべき自由が生まれて いるのです。彼は形式を、自分の意志に服従させています。じつに見事に。 私はつねに形式を意識します。しばしば構造と感情は拮抗しています。とはいえ形式があ るからといって、音楽が感動的でなくなるわけではありません。ベートーヴェンが生み出し た目に見えない連関や骨組みは、私たちを無意識の彼方で、時の進展とともに感動させま す。首尾一貫性の欠如をとりたてて問題視せずに、より抒情的な音楽を書く作曲家もいま すが、それは長い目で見れば受け手を退屈させます。ベートーヴェンの音楽は、私たちに おもねることはせず、私たちに寄り添ってくれます。 ベートーヴェンのピアノ音楽は管弦楽的だと思われますか? 初期の一連のソナタは、そうだと思います。明らかに。しかし《ハンマークラヴィーア》は果た して管弦楽的でしょうか……?この曲を弾きながら、オーケストラの力強さを目指すことは 不可能です。むしろ《ハンマークラヴィーア》には、極めて強烈な“ピアノらしさ”があると思 います。 室内楽作品の演奏や、室内楽の分野での経験は、貴方のソナタ二曲の演奏を変化させ、 深化させたのでしょうか? 私はいつも、ある作曲家の世界に、室内楽作品から足を踏み入れます。もちろんショパン のような作曲家は例外ですが、それが私の一般的なスタンスです。たとえば私は《チェロ·ソ ナタ》の演奏を通して、ラフマニノフの音世界に近づき、彼の音楽を体得しました。私には、 ピアノ独奏曲に取り組む前に、その作曲家の音世界に身を浸し、馴染む必要があるので す。ベートーヴェンの場合も、これまでに一連のチェロ·ソナタとヴァイオリン·ソナタを何度も 演奏しました。

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