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テオ・フシュヌレ 35 《ハンマークラヴィーア》は、ベートーヴェン自身が記したタイトルゆえに、そしてま た、45分を超える(!)長大な演奏時間ゆえに有名でもあります。 ベートーヴェンが記した極めて綿密なメトロノーム記号に従うと、演奏時間は40分です。つ まり、巨大な野心作とはいえ、このソナタの規模はどちらかといえば標準的なのです。シュ ーベルトは時間を引き伸ばしましたが、ベートーヴェンはさほど時間を引き伸ばしていませ ん。しかも私が思うに、ベートーヴェンはこの曲において、スピードを感じてさえいます。多 くの箇所で、拍動があまりに小刻みなのです。この拍動を鎮めれば、奏者は音楽的時間を 整えることができます。曲全体の組織化と音楽的時間こそ、古典派音楽の肝心かなめの要 素です。 おっしゃるとおり、ベートーヴェン本人が“ハンマークラヴィーア”というドイツ語表記にこだ わり、このタイトルを考案しました。このタイトルは、ピアノのハンマーと、この作品がもつド イツ的な精神を、極めてダイレクトに喚起しています。ちなみに彼は、先に作品101の呼称 に“ハンマークラヴィーア”を用いようとして、出版社に拒否されています。そこで彼は作品 106で、再び交渉を試みたのでしょう……(笑) 貴方と《ハンマークラヴィーア》を繋いでいるのは愛情でしょうか、それともより精神的な ものでしょうか? 愛情に溢れています。じっさい、私を導いてくれたのは愛です。私にとって、特に緩徐 楽章は、この世に存在する最も人間的な音楽です。湧き出でる博愛の精神、普遍性 が、私の心を打ち、私の心に饒舌に語りかけます。《ハンマークラヴィーア》はしばしば、 この上なく知的なソナタとみなされています。しかし私からすれば、全く知的な音楽では ありません……。フーガには、全てを吹き飛ばすような生命力が宿っています。ベートー ヴェンは素材を急激に発展させながら、この複雑な音の構築物を練り上げています。私 と《ハンマークラヴィーア》の関係を築いたのは、感情とは言わないまでも、そのエネルギ ーなのです。

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