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テオ・フシュヌレ 33 どちらの曲を先に録音したのですか?録音の過程についてもお話しください。 あえて厳密な曲順で録音せず、そのときどきの自分の情熱に従って、録音する音楽を決め ました。そのようなわけで、《ハンマークラヴィーア》の最初の3つの楽章を先に録音したの です。第3楽章まで弾いた後、次に《ワルトシュタイン》の録音に移りました。《ハンマークラ ヴィーア》のフーガ(第4楽章)は最後に取っておいたのですが、録音には随分と時間がか かりました(笑) 丸々三日がかりのレコーディング中、私は午後に長いテイクを録るようにしていました。自 分自身の内から湧き出でる演奏への欲求を、出来るだけ感じ取ろうと努めました。 録音を通して、作品の見方や解釈は変わりましたか? 《ハンマークラヴィーア》は、ベートーヴェンにとって重要な時期に生まれています。しばら くの創作活動の停滞を経て書かれたからです。有名な交響曲第9番や《ミサ·ソレムニス》と 同時期に作曲されたこのソナタからは、彼が自分の音楽を取り戻そうと努めているような印 象を与えられます。彼はピアニストとして、また作曲家として、さまざまなことを自分自身で 解明する必要がありました。だからこそ《ハンマークラヴィーア》は、奏者に真の挑戦を突き つけるのでしょう——身体的にも、精神的にも。確かにこの曲を弾くと疲れますが、一方で、 その壮大な音の旅に病みつきになります。そして演奏すればするほど好きになり、聞けば 聞くほど慣れ親しんでいきます。最初に《ハンマークラヴィーア》をコンサートで弾いたとき、 私は“散々な目”にあって舞台を後にしました。しかし、今は違います。この作品の全体像 を思い描けるようになったからです。もちろんこれに関しては、録音の経験も活きていると思 います。私は、自分自身の考えや構想を胸にスタジオに到着しました!けれどもレコーデ ィングが進む中で頻繁にテイクを聞きながら、自分の演奏を色々と変えていかなければな りませんでした!じっさいの自分の演奏を念頭に置きながら、マイクを通した自分の演奏を 聞くのは、とても難しい作業です。それでも私は、絶えず自分の演奏を順応させようと努め
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