LDV80
32 ベートーヴェン 二つのソナタを同じ楽器で録音なさったのですか? 優れたスタインウェイを一台用意するというレコード会社からの提案を信頼して、今回のレ コーディングにのぞみました。私にとっては打ってつけの状況でした。というのも私には、 ある何らかの響きを手に入れるために、特定の楽器を用いたいという意向はなかったので す。むしろ私は、与えられた一つの楽器から、さまざまな響きを引き出してみたいと望んで いました。 だからといって私は、ピアノフォルテや、作曲当時の、いわゆる“歴史的な”楽器に関心が ないわけではありません。じっさい私は、おのおのの楽器の技術的な限界や音色の限界を 理解して見極める作業に面白さを感じています——それがデシベル(音量)の観点から見る と何を示唆しているのか?演奏の明瞭さと、ペダルによる共鳴の効果については、どう考え るべきか?……とはいえ私の場合、まだ説得力のある演奏を聞かせられるほど十分に古楽 器と向き合えてはいません。まだ私の知識は、あまりに理論的な領域内にあります。 言うまでもなく、現代のピアノで実現可能なことは、当時の作曲家や演奏家たちが耳にして いたものとは異なります。それでも私は、もしも彼らが現代に蘇ったなら、モダン·ピアノがも つ可能性に魅了されるに違いないと、ひそかに想像してもいます。 結局のところモダン·ピアノによる演奏は、(ささやかな)編曲に似ています。そもそも《ハン マークラヴィーア》から聞こえてくるのは、ベートーヴェンが当時は存在していなかった“想 像上の”ピアノのために作曲した音楽です。なぜならごく単純に、楽譜の全ての内容が、当 時の楽器で実現可能なわけではないからです!たとえば、ダブル·エスケープメント·アクシ ョンの助けなしに、第2楽章〈スケルツォ〉を弾けるでしょうか?……私には無理です!一体 どう弾けばいいのでしょう?とりわけ指定のテンポに従おうとすれば、途方に暮れるはずで す。これとは反対に、明確にペダルが指定(ウナ·コルダ)されている緩やかな序奏を、ピア ノフォルテの音色のパレットを想像せずに奏でることはできません。 全てが精密に構想されており、その一つ一つが明確な意味をもっているのです。
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