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36 イザイ / 6つの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ作品27 さきほど、各ソナタには献呈者の個性があらわれているとおっしゃいましたが、それは音 楽的な次元でも感じられますか?イザイは、曲を捧げたヴァイオリニストたち一人ひとり に特有な様式を、作曲書法に反映させているのでしょうか? はい、もちろんです。真面目で厳格な演奏家として知られるハンガリー出身のヨーゼフ·シゲ ティに捧げられた第1番は、6曲中、もっとも長大で、もっとも緻密に構築されています。 第2番の前奏曲は、ジャック·ティボーの軽やかな一面を彷彿させます。そして〈執念〉〈亡霊 たちの踊り〉〈復讐の女神たち〉は、ティボーの気まぐれでブリリアントな演奏スタイルをしの ばせます。 “バラード”として有名な第3番では、ジョルジェ·エネスク(エネスコ)の魂が音楽に託されて います。中欧の民俗音楽を彷彿させるこのソナタは、本能的な力強さにみなぎっています。エ ネスクに感服していたイザイは、彼が“ヴァイオリンも弾く作曲家”ではなく“作曲もするヴァ イオリニスト”であると考えていました。 第4番はフリッツ·クライスラーに捧げられています。クライスラーが好んで書いた魅力的な 小品の多くは、古い舞曲に範を取っています。そのため彼への献呈は、バッハの《パルティー タ第1番》を示唆していると考えられるでしょう。舞踊組曲として構成され、輝かしい〈フィナ ーレ〉で幕を閉じる第4番は、作曲家クライスラーとヴァイオリン奏者クライスラーに同時に 敬意を表しているのです。

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