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ダヴィド·グリマル 35 イザイは、バッハの曲集の全体的な構成からも着想を得ています。たとえば、短調のソナタ 4つと長調のソナタ2つを組み合わせていますし、第1楽章と終楽章を同一の調性で書い ています。バッハのソナタとパルティータがそうであるように、イザイの6つのソナタも、人 間の深遠な心の旅の軌跡を描写しているように感じられますか? イザイの曲集はバッハの曲集よりも短いですし、各ソナタの長さや構造は、かなりまちまちで す。イザイの曲集は、“軌跡”よりもむしろ、6人の献呈者たちのポートレート(肖像画)が並ぶ 画廊を私に想像させます。各曲が6名のヴァイオリニストたちにそれぞれ捧げられており、い ずれのソナタにも献呈者の個性が色濃くあらわれているからです。同時にそこには、ウジェー ヌ·イザイ自身の“彫りの深い”ポートレートも描かれています。弟子たち、同業のヴァイオリニ ストたち、作品の演奏を任された作曲家たちに寛大に接した一人の人間の姿が、6つのソナ タをつうじて浮き彫りにされます。 ソナタとパルティータの深遠な旅のはじまりを告げる題辞は、言葉遊びです。 バッハは“Sei Soli(” 6つの独奏曲)と記す代わりに、“Sei Solo(” 君は独り)と 書き入れたのです。これはじつのところ、実存的な孤独をめぐる問いかけです。 しかしイザイは、聞き手をこの問いかけと再び向き合わせようとはしていませ ん。むしろ私たちは、彼の音楽にみなぎる友愛の情に浸ることになります。
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