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45 ジャン=フィリップ・コラール 貴方は、ショパンの演奏に大いに力を注いできました。ショパンとグラナドス の音楽に共通しているのは、サロン音楽に普遍性を与え昇華させた点、時に 物憂げで時に雄々しい高貴なエレガンス、そして何よりも声楽的な曲想です。 舞曲への愛着は言うまでもありませんが、官能性や、抒情的で時に物狂おし い力強さも、共通点として挙げられます。演奏者が、これら全ての特長を両立 させようとする場合には、何を心に留めるべきでしょうか?そこには、錯綜す る意図の森の中に迷い込み、挙げ句に作品全体の構造をおろそかにしてしま う危険が潜んでいます…… 確かに、グラナドスとショパンの比較には興味をそそられます。なぜなら二人とも、絶えず 抒情性を追求していたからです。リズム、音色、官能性と相まって、《ゴイェスカス》のあら ゆる様相を支配し、その演奏を導くのは、“歌”を志向する徹底した姿勢です。ただしこの 声楽性は、作品の構造の秩序を乱しうる存在でもあります。だからこそ、表明され重層的 に並置される数々の意図は、注意深く“操縦”されることを弾き手に要求しています。演奏 がコントロールを失うリスクは、さほど大きくありません。むしろ私たちが抱えているのは、曲 の極めて自由な展開にかこつけて、自分の技術的な限界に譜面の帳尻を合わせてしまう リスクです。グラナドス自身はピアニストとして、傑出した完璧な演奏能力を自在に操って いました。私たち聴き手は、グラナドスがピアノを弾き始めた瞬間に、彼が自分の気分や 魂の欲求が促す幾千もの抑揚と意図を、即座に音で表現できるのだと悟ります。そのとき 確かに、演奏者の行為は画家の行為を兼ねているのです!

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