LDV73

43 ジャン=フィリップ・コラール 同時代(1910年前後)に作曲されたアルベニスの《イベリア》と同じよう に——そしてスペインの民俗音楽から完全に自由なかたちを取りながら—— 《ゴイェスカス》はグラナドスの作品群の中に突如として現れました。二つの 曲集が達した比類なき高みは、それまで彼らが書いていた、どちらかと言えば サロン向きの音楽や小品とは一線を画しています。《イベリア》と《ゴイェスカ ス》が極めて異質な曲調をもつ点はさておくとして、貴方は、ピアノ音楽史が抱 えるこの二つの謎、しかも同じ国に由来する謎を、どのように受けとめていま すか? グラナドスはアルベニスに対して、より具体的には《イベリア》に対して、並々ならぬ尊敬 の念を抱いていました。おまけにグラナドスは、巨大なフレスコ画に喩えられる《イベリ ア》を聞くようにと、弟子たちに勧めてもいました。この事実を踏まえると、自分も《イベリ ア》のような大曲を書いてみたいという強い憧れが、グラナドスの背中を押したのではな いかと、容易に想像できます。 また当時のグラナドスが、ピアニストとして旺盛な活動を展開していた点を加味すれば、 奏者たちが限界を突破して聴衆の心をつかむようグラナドスが望んだことにも合点がい きます。

RkJQdWJsaXNoZXIy OTAwOTQx