LDV72

フィリップ·カサール 27 D845の第1楽章は、シューベルトが15歳で作曲して生前に出版した“最初の大ソナタ”を思 い起こさせる。この《大ソナタ変ロ長調》D617(1818)において、ピアノでオーケストラの音世 界を表現したシューベルトは、その力強さと音色の配合のセンス—―たとえば、極端な低音 と極端な高音の同時使用—―を、《さすらい人幻想曲》(1822)で再び発揮することになる。 ソナタD845の第2楽章は、変奏曲の形式を取る。主題の踊るような律動と明るいハ長調の 響きは実にウィーン的で、1828年の《4つの即興曲》第3番D935を予示している。 第3変奏(ハ短調)の一連の和音は、アポジャトゥーラゆえに苦痛で顔をしかめているような 印象を与える。最後の変奏では、連打される和音が描く長いリボンが、テノール独唱と合唱 とピアノのための《夜の明かり》D892を彷彿させる上に、星夜の遠方でホルンの四重奏が響 きわたる。モノクロの第3楽章〈スケルツォ〉は、いきり立った調子に支配されている。しかし トリオでは打って変わって、何とも中央ヨーロッパ的な和音の連結が、妙なる夢想の瞬間を 生じさせる。 終楽章〈ロンド〉は、モーツァルトが同じくイ短調で書いたソナタK.310の〈ロンド〉としばしば 比較される。だがシューベルトの〈ロンド〉は、よりいっそう捉えどころがなく不安げだ。さらに 彼は、所々に現れる音の爆発において、1つの長い音価と2つの短い音価から成る、お気 に入りのリズム・モチーフを復活させている。曲尾の凄まじいアッチェレランドは、まるで聴き 手に不意打ちを食らわせ、大打撃を与えようとしているかのようだ。

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