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26 シューベルト シューベルトの音楽が総じてそうであるように、彼のピアノ作品を解く鍵はリートの中にひそ んでいる。ソナタD845とほぼ同時に書き進められた《墓堀人の郷愁》D842(詩:クライガー) には、次のような詞が現れる:“あらゆるものから見捨てられ/ただ死と繋がっている私は/ 十字架を手にして/墓の縁に立ち/憧れのまなざしを/墓穴の奥底へと注ぐ”——この詞 のあいだ、ピアノ・パートは装飾音つきのユニゾンで歌の旋律をなぞる。その音型は、D845 の第1楽章〈モデラート〉の第1主題と瓜二つである。 シューベルトはD845の第1楽章の第2主題に、いかなる重要性も与えていない。彼の唯一 の関心事は、沈黙から出でて激高に至るユニゾンの繰り返しと、次第に激しさと気難しさを 増していくアクセントつきのリズム・モチーフの応酬である。
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