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48 BACH TO NOTRE-DAME 要するに、現代のオルガニストたちが演奏する楽曲はいずれも、時代のプリズムと代々の演 奏者たちのプリズムを湛えているということですね…… まったくその通りです。だからこそ私は、今回の録音のために、30歳の時から弾いている曲 に再び腰を据えて向き合いました。そしてバッハの音楽に深みを与えてきたあらゆるオルガ ニストたちの存在を忘れることもできません。そこにはもちろん、私の師ガストン・リテーズを 筆頭に、彼以前・以後の音楽史の証言者たち——フランスであればルイ・ヴィエルヌ、マルセ ル・デュプレ、ピエール・コシュロー、マリー=クレール・アラン、ミシェル・シャピュイ、アンド レ・イゾワール——が含まれます。さらにドイツには、カール・シュトラウベやヘルムート・ヴァ ルヒャがいますね。名を挙げていけば、きりがありませんが……。とはいえ私は、歴史上の演 奏家たちに、懐古趣味的で無益なまなざしを注ぐことはしません。先達たちが達成した偉業 をただ模倣したところで、何の役に立つというのでしょう?演奏とは絶えず変化するもので すし、現代を生きる私たちの響きや美の捉え方も、過去の演奏家たちのそれとは違います。 はやりの英語の表現にならえば、私たちは結局のところ、“歴史的な情報を取り入れた演奏” (historically informed performance)をするのが関の山です。 なぜ私は、1929年にルイ・ヴィエルヌがノートルダム大聖堂で録音した《われ心よりこがれ望 む BWV727》の演奏に心打たれるのでしょうか?それは素晴らしい響きだからです!私は、 マルセル・デュプレがパリのサン=シュルピス教会で録音した《幻想曲 ト長調 BWV572》を 聴く時にも、全く同種の感動をおぼえます。もちろん、これらの作品をめぐる私の解釈は二人 とは異なります。それでも彼らの演奏からは、多くの霊感を授けられるというわけです。

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