46 BACH TO NOTRE-DAME バッハの音楽を編曲あるいは改作した作品が、あなた自身の演奏に霊感を与えた例はあり ますか? 指揮者レオポルド・ストコフスキー(原注2)によるバッハ作品の管弦楽用編曲に興味をもち ました。ストコフスキーが並外れたイマジネーションの持ち主であったことは、彼の音楽的な アイデアが光る《トッカータとフーガ ニ短調 BWV565》——今回、私はこの曲を初録音しま した!——や《小フーガ ト短調 BWV578》などの編曲からも明らかです。ストコフスキーの 編曲は私に多くの示唆を与えてくれます。なぜなら彼が手がけたオーケストラ版は、原曲の譜 を字義通り演奏することから脱して、各楽器に固有の潜在能力を存分に生かすことを目指し ているからです。 《幻想曲とフーガ ト短調 BWV542》にアプローチする際には、フランツ・リスト(原注3)の ピアノ用編曲を参照しました。ちなみに私自身は、この“フーガ”が“幻想曲”の後に作曲された という考えには懐疑的です。単に同じ調性(ト短調)であることから、2つの曲が後々になって 合体した可能性が高いと思います。リストが19世紀を代表する作曲家の一人であることは 言うまでもありません。編曲にも長けていた彼は、原曲がもつ表現的・劇的な可能性を即座 に見抜く非凡な洞察力に恵まれていました。そしてリストは編曲の段階で、モダン・ピアノの 可能性を最大限に生かすことができました。
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