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34 バッハ・トゥ・ザ・フューチャー フランス趣味の作品——バッハ自身が“Pièce d’orgue(オルガン曲)”とのフランス語タイ トルを添えた《幻想曲 ト長調 BWV572》——に記されているフランス語の演奏指示“très vitement(とても速く)”“gravement(重々しく)”“lentement(緩やかに)”は、私たちフランス 人を喜ばせてくれます。この作品は間違いなく、クープランやグリニーの作曲様式に捧げら れたオマージュであり、フランス的な迫力ある“プラン・ジュ”(オルガンのストップ配合の一 つ)が見事に合います。 《オルガン小曲集》から〈汝のうちに喜びあり BWV615〉も収録しました。バッハの全てのコラ ール作品がそうであるように、彼はコラールの詞と結びついた音型を用いて、ある言葉を指 し示したり、ある意味を音に翻訳したりしています。さらに興味深いことに、この曲では、コラ ールの旋律が初めから終わりまで途切れなく奏でられることが一度もありません。しかし詞 のフレーズが、その理由を探る鍵をにぎっています:“われらの縛りを断つ”。この音楽が18 世紀の信者たちに向けて暗示した表現内容には、ただただ驚かされます。その際、彼らの 学識の有無は大した問題ではありませんでした。なぜなら、音楽が物語るものを理解する 力は誰にでも具わっているからです。大聖堂が、柱に飾られた聖人たちの彫像によって視 覚的にキリスト教の教理を説明しているのと全く同じように、バッハは音によってキリストの教 えを私たちに伝えています。

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