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32 バッハ・トゥ・ザ・フューチャー 何よりもバッハの作品が、そのような問題意識の追求に適しているのはなぜでしょうか? バッハの音楽の特質は、その超越性です。だからこそ、ある程度まで、どんな楽器にも適 応します。彼の音楽は時代を超越したところに在り、あえて言うならこの世界のものでさえな いのです。時空を超えて永続的に再生されうるという作品の特質は、演奏場所の音響——ノ ートルダム大聖堂の残響は7秒です——と楽器に奏法を順応させているオルガニストにとっ て必要不可欠です。それでも当然ながら、バッハの作品の中でひときわ多声的な書法のも のは、教会でのオルガン演奏にはあまり向いていません。意外に思われるかもしれません が、オルガニストは何よりもまず、室内楽奏者です。つまり一つ一つのオルガンは、まるで 物言わぬ室内楽の共演者のように、オルガニストと不思議な対話を繰り広げます。“この楽 器では、これはできるよ、でもそれはできない……違う方法を探したらどうだい?”と……。 オルガン演奏の第一のルールは、目の前にある楽器の主張に耳を傾けることです。それは 今回の録音で用いたカヴァイエ=コルの楽器を弾く場合でも、バッハの時代により近い北 ドイツやザクセンやオランダの楽器を弾く場合でも全く同じです。

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