34 ブラームス / クラリネット・ソナタ - ホルン三重奏曲 華麗さと「ナチュラルな」詩情をホルンから引き出したブラームスは、クラリネットには、全く異 なる——言わば、より本質的な——情熱を寄せた。この情熱は、すでに若きブラームスのバ ラードを特徴づけていた「純粋な内面性」を踏襲しながら、彼の人生の黄昏時に生まれた四 つの代表作を支えていく。この「純粋な内面性」は約40年の紆余曲折を経て、晩年のピアノの ための間奏曲、《クラリネット五重奏曲 作品115》、二つの《クラリネット・ソナタ 作品120》を 介して、私たちの前に再び姿を現すのだ。 二つのクラリネット・ソナタが、ブラームスの最後の室内楽曲であることは象徴的だ。思えば モーツァルトも、晩年の五重奏曲と最後の協奏曲において、この楽器の内省的な側面に迫っ た。クラリネットは、ある種の孤独——つねにブラームスの生涯に寄り添った感情——を喚 起する楽器でもある。周知のとおり、彼の二つのクラリネット・ソナタは、《クラリネット三重奏 曲 作品114》・《クラリネット五重奏曲 作品115》(いずれも1891年作)と同様に、クラリネ ット奏者リヒャルト・ミュールフェルトから「インスパイア」され着想された。ブラームスは、ちょ うど1891年にマイニンゲンで彼の演奏に接した。この頃ブラームスは作曲活動を中断してい たが、ミュールフェルトの高い芸術性とクラリネットの存在が、ブラームスの創作意欲を再び 刺激した。こうして産声を上げたクラリネットのための4作品のうち、三重奏曲と五重奏曲は ただちに書き上げられたが、二つのソナタが完成するのは、のちの1894年夏、彼のお気に入 りの保養地バート・イシュルにおいてである。両曲は、同年9月に彼とミュールフェルトにより 非公開で初演されたのち、11月にクララの同席のもとに私的に演奏されている。外向性とは 無縁の2曲のソナタは、先例のない目覚ましい音の開花にたとえられる。そこで照準を定めら れているのは、もはや聞き手ではなく、作曲者自身の純粋なエコーとしての音楽だけである。 最後のピアノ独奏曲集(作品117・118・119)と同時期に書かれた二つのクラリネット・ソナ タは、三重奏曲と五重奏曲が帯びていたメランコリックな曲調を受け継いでいる。とはいえ、 二つのソナタにみとめられる超然とした姿勢、あらゆるノスタルジアの彼方を見つめる遠い 眼差しは、最晩年のピアノ作品にも通ずる特徴である。
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