LDV61
30 ブラームス _ ピアノ五重奏曲 ヘ短調 作品34 / 8つのピアノ小品 作品76 《8つのピアノ小品 作品76》について “ピアノ小品”は、ソナタ・変奏曲とともに、ブラームスが残したピアノ作品群の3つの主軸を 成している。そして一連のピアノ小品は、6つの作品番号(作品76、作品79、作品116、作品 117、作品118、作品119)で区分けされている。 最初の作品76は1878年の夏に作曲され、最後の作品119は1893年(ブラームスはこの年に 死去した)の夏に作曲されている。ブラームスが45歳で書き上げた作品76には、当時の彼 がすでに抱いていた奥深い思想が詰め込まれている。“Klavierstücke(ピアノ小品)”という タイトルからして、素っ気ないとは言わないまでも、じつに簡素である。しかしこの曲集の背 後では、彼の心情がふんだんに吐露されているように思えるのである。 「ある種の抽象的な書法と形式が、ブラームスに大いなる表現の自由を与えています。作 品76は、その後に続く一連の“ピアノ小品”の出発点ではありますが、リズムの複雑性とポリ フォニック(多声的)な音の扱いにおいて、もっとも進歩的な筆致を誇っていることは確かで す」と、クトーは熱弁する。 作品76を構成するのは、4つの奇想曲と4つの間奏曲、合計8つの小品だ。この2つのタイ トルは何を意味しているのだろう?それらは実際に、曲の内容と一致しているのだろうか? クトーによれば、「奇想曲と間奏曲というタイトルは、ブラームスの中で何らかの具体的で明 確な意味をもっていたのだと私は思います。彼が1つの一貫した曲集を8つの小品で構成 したのは、それらがリアルな力を具えた1つの弧を描いているからでしょう。ピアノ小品集を 書くという発想にはシューマンからの影響も垣間見られます。例えば《色とりどりの小品》《森 の情景》《暁の歌》など……。これらの曲集において、シューマンは断片的な小品を積極的 に容認し、形式ありきの作曲に疑問を投げかけているようにもみえます。ブラームスはこの 点でシューマンを範としながら、あらゆる形式的束縛から自由な、純粋に表情ゆたかな音 楽を書こうとしたのではないでしょうか。」
RkJQdWJsaXNoZXIy NjI2ODEz