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ジョフロワ・クトー | エルメス四重奏団 29 第1楽章〈アレグロ・ノン・トロッポ〉の冒頭に置かれた極めて美しい主題は、和声的にも旋律 的にもコントラストに富んでいる。荒々しく、容赦なく、しかしまた神秘的な主題は、シューベ ルト風の哀愁漂うリートにも、交響的な広がりをもつ音楽にも通じている。 一変して峻厳さが影を潜め、親密なロマンスの雰囲気に浸かる第2楽章〈アンダンテ、ウン・ ポコ・アダージョ〉は、極めて柔軟なリズム書法を軸に進展していく。 第3楽章〈スケルツォ:アレグロ〉は、3つの主題のリズム的差別化にもとづいて構成されてい る。その熱烈な感情のほとばしりは、まるで大地の深部から湧出しているかのようだ。この種 のいかにもブラームスらしい「北ドイツ的な」性格が、作品に荒い息遣いと勇壮な表現を吹 き込んでおり、ベートーヴェンの筆致を想起させる。ひるがえって中間部のトリオは、しばし 平穏な音世界をもたらす。 第4楽章〈フィナーレ:ポコ・ソステヌート~アレグロ・ノン・トロッポ~プレスト、ノン・トロッポ〉 は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲にならって幕開けする。導入部において、不穏さを隠 しきれない峻厳なテンポが、胸を打つハーモニーを響かせるからだ。ブラームスは複雑な ポリフォニー(多声音楽)を、民俗音楽風のエネルギーと色彩を湛えたリズムと結びつけて いる。この最終楽章は次第に落ち着きを失い、スケルツォ楽章の曲調に近づいていく。そ の激しさは歓喜ないし苦痛の叫びに変容しながら、この楽章を急き立てていく。 クトーによれば、「ブラームスの音楽にはほぼつねに、激しさと温和さを同居させる独特 な音色が具わっています。そのような作品の特色自体が、今回、私と弦楽四重奏団の音楽 作りに深みを与えてくれたように思います。」
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