LDV600-6

しかしベートーヴェンの偉大さは、コントラスト——時に粗暴なコントラスト—— をもたらす手腕の中に見出される。そこには彼の内なる苦悩が投影されているの だろうか? たとえば第85小節で、ベートーヴェンは極端な高音と低音の組合せを探る“ミネラ ルな”パッセージを聞かせる——それは、長い歴史をもつ切り立った岩を彷彿させ る。長年にわたる堆積によって得た輝きは、第144~151小節でいっそう際立つ。 そのときイザイ四重奏団は、弓の運びを遅め、共通のフレージングの中に僅かにヴ ィブラートを加えている。 第1ヴァイオリンが沈思に浸る。8分音符が並ぶフレーズのアーティキュレーショ ンと、他の楽器パートの保続音が次第に鮮明にしていく和声的な色彩は、そのコ ントラストによって空間感覚を生み出す。その後に音楽は、ウィーン的な愛らしさと 凡庸なエレガンスを再び帯びるも、やがて展開部の後半が、副次主題をフガートと して扱いながら、あの純粋な抽象性の“ミネラルな”側面を確立する——それはバ ッハの《フーガの技法》とベートーヴェンの《大フーガ》の意気揚々としたムード( 第185小節)に通ずる。このときリズムが打楽器的な性質を帯びるのは、チェロの 運弓が圧縮された空気のようなアタック音を聞かせるからだ。 66 ベートーヴェン | 弦楽四重奏曲(全曲)

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