LDV600-6

ラズモフスキー伯爵に捧げられた《弦楽四重奏曲第7番作品59-1》の四つの楽 章は、いずれも、ヘーゲルの定立・反定立・総合にならったソナタ形式(第1楽章形 式)で書かれている。すなわち、第1主題が主調で提示され、第2主題が対照的な 調性で現れると、展開部で2つの主題の諸要素が豊かにせめぎ合い、ついには“和 解”の再現部において両主題が主調で回帰する。ここでベートーヴェンは、ボッケ リーニの初期の四重奏曲に見られるバロック時代後期の装飾法への嗜好と(第 66~71小節)、主題を提示する「型破りな」チェロ・パートを、ほぼ受け継いでい る。この主題は実に自然に流れ出てくるような印象を与えるが、ベートーヴェンの スケッチ帳には、主題の旋律的・リズム的な変形が100以上も書き留められてい る。ベートーヴェンは、このように根気よく音素材を加工するにあたり、自らの勘を 出来るだけ抑制しながら、音楽全体に生き生きとしたエネルギーが供給されるよ う努めた。運動が力を増していくなか、ベートーヴェンは律動を3拍子へと移行さ せるが、イザイ四重奏団は、これを誇張する3連符を強調しない。むしろ彼らは、律 動をぼやかせる——その繊細な演奏は、蓄積されるエネルギーの効果を蓄えてお く。それによって、主要主題が3連符および反復音と重なり合い、明敏なハードロッ ク・ファンをも唸らせるパワフルなリズム的興奮を生み出す瞬間に、よりいっそう大 きな爆発がもたらされる! 65 イザイ弦楽四重奏団

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