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52 プロコフィエフ | カウエル 今回選曲なさったカウエルの4作品についてご説明いただけますか? 各曲とは、それぞれ別の機会に出会いました。4作品は、1912年から1930年にかけて作曲 されたものです。いずれも調性音楽で、いわゆる伝統的なクラシック音楽の語法で書かれ ていますが、楽譜上には特殊奏法も明記されています。主題はどれも非常にシンプルで、 数音のみから成ります。カウエルは、ごくわずかな強弱しか指示していません。そのため奏 者自身が、適切な表現を見出してフレージングを決めていかなければなりません。そして 奏者は、さまざまな方法を実験的に試しながら、本番で用いる楽器や会場の音響に表現を 順応させる必要があります。 彼の最も知名度の高い作品の一つ《マノノーンの潮流》を筆頭に、幾つかの作品は楽譜の 入手に骨を折りました。マノノーンとは運動を司る神で、カウエルは潮流を音で魅惑的に描 写しています。この曲はシチリエンヌの形を取り、伝統的なクラシック音楽の語法による旋 律に、和声が付けられています。 《バンシー》と《妖精の鐘》は、より複雑な作品です。この2曲は、音楽史上初めて、ピアノの 弦に直に触れて音を出すよう(内部奏法)指示した作品とみなされています。《バンシー》で は、人あるいは物が、絶えずフォルテペダルを深く押し続けます。そして奏者自身は鍵盤 の反対側に立ち、共鳴版に上体を傾けて弦に触れます。奏法は、どのように弦を指で擦る かによってさまざまに変わります。さらに譜面には3~4音から成る主題が記されており、奏 者は弦をはじいて、この旋律を聴かせます。《バンシー》は定義しがたい作品です。なぜな ら、この曲が結果としてどのように響くのかは不確定だからです。完全な自由を与えられた ピアノが、予想外の音色や不思議な音響効果を生み出します。

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