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ヴァネッサ・ワーグナー 33 今回のプログラムがまとう特異な雰囲気をピアノで築いていく上で、どのよう なサウンドを追求なさったのでしょうか? 録音ではスタインウェイを用いました。会場には、メス・アルスナル文化センターの広々とし た素晴らしいホールを選びました。録音技師フランソワ・エケルトと密な共同作業を進めて いく上で、私たちはこのプログラムならではの収録方法を模索しました。具体的には、大聖 堂内の響きを思わせるような、豊潤なサウンドを追求しました。私は何があっても、一時代 を築いた収録方法——リスト作品の甘美さと優しさを犠牲にするような、直接的で画一的な 音——を避けたいと思っていました。むしろ私が望んだのは、ピアニシモにおける親密で内 省的で孤独な音、そしてフォルテシモで湧出し沸き立つ豊かな音です。今回の曲目は奏 者に、恍惚や己との対話をもたらし、内省と内なる探求を徹底して促します。だからこそ、宗 教から想を得たこれらの楽曲は、人間的な深い感情を湛えてもいます。つまり私たちは、こ れらの作品を演奏し聴取する際に、宗教的な感情を超えた広義のスピリチュアリティを志 向することができるのです。

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