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ジャン=フィリップ・コラール 41 1874 年に《展覧会の絵》を作曲した当時のムソルグスキーは、《ボリス・ゴドゥノフ》の成功に 背中を押され、大いなる創造性に溢れていた。彼は、友人の画家・建築家ヴィクトル・ハル トマンの遺作展を訪れたことをきっかけに、このピアノ曲集の作曲を思い立った。創作中の ムソルグスキーは、友人の音楽評論家ウラディーミル・スターソフに宛てた手紙にこう書い ている。「ボリスが沸き立つように、ハルトマンも煮えたぎっていますよ。目下、空中に充満し ている音とアイデアを、必死に飲み込み、たらふく食べているような状況です。いかんせん 私には、それらを全て紙に記す時間が足りません!」彼はこうした興奮状態の中、わずか 3 週間で《展覧会の絵》を書き上げた。このピアノ組曲は、ハルトマンの絵(そのうち現存して いるのは『キエフの大門』『鶏の足の上に建つ小屋』など 5 点のみ)から想を得た 10 曲の性 格的小品から成る。さらにこれらの間に、 5 つの〈プロムナード〉が挿入されるが、これは一 枚一枚の絵を鑑賞する作曲家自身の“プロムナード(散策、逍遥)”を暗示する主題にもと づく、一連の変奏曲と捉えられうる。このように他に類をみない、極めて独特な構造をもつ《 展覧会の絵》は、ムソルグスキーの存命中には一度も演奏されなかった。この組曲を忘却 の淵から完全に救い出したのが、ラヴェルによる管弦楽版( 1922 )である。この編曲版は今 日もなお、ピアノ独奏用の原曲よりも頻繁に演奏されている。

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