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ジャン=フィリップ・コラール 39 《 6 つの楽興の時》は、ラフマニノフの私生活においても、音楽家としてのキャリアにおいて も、重要な岐路となった。 6 曲は、 1896 年の 10 月から 12 月までの 3 か月のあいだに書き進め られたが、その直後に彼は、音楽家として 4 年にわたるスランプに直面し、精神の病に苦し むことになるからである。シューベルトの《楽興の時》( 1828 )にオマージュを捧げる《 6 つの 楽興の時》の各曲は、当時のラフマニノフ自身の憂鬱や苦悩といった精神状態を映し出し ている。曲集全体は、緩やかで内省的な時と、より華やかで刺激的な時の交替を軸に構築 されている。無言歌、舟歌、練習曲などの伝統的な形式を採用していながらも、この若き日 のラフマニノフの曲集には、やがて《協奏曲第 2 番》で打ち出されることになる独創的な様式 が早くも見出される。さらにこの曲集は、彼の後年の様式を特徴づける豊かで緻密なテクス チュアを予示してもいる。例えば《6つの楽興の時》第 2 番は、息を呑むような半音階的練習 曲の様相を呈しているが、音楽史上では極めて稀なことに、ラフマニノフ自身がこの曲の演 奏録音を残している。この音源は今日もなお、彼の演奏の個性や特長を伝える貴重な資 料であり続けている。

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