LDV44
ホアキン・アチューカロ 35 ここからはレコーディングについてお話を伺います。なぜ、《前奏曲集》を中心とするシ ョパン・プログラムをマイクに託すまでに、長年を要したのでしょうか?? 《前奏曲集》は、単に隣同士に並べられた珠玉の小品の集合体ではありません。この曲 集は、一つの総体、一つの巨大な作品です。その中で各曲は、極めて短いながらも、そ れぞれに特異な気分を喚起し、個々に小宇宙を形作っているのです。それらは、 24 の“ 心理の探求”、つまり 24 種の精神の動きを表現しているといえるでしょう。慈悲、喜び、怒 り、雄々しさ、敗北、勝利、愛、ノスタルジー、哀しみ、希望、諦念など、ショパンがこの上 なく精通していたあらゆる感情を……。確かに私は、《前奏曲集》を録音するまでにずい ぶんと長い歳月を必要としました。しかしそれは、この曲集を完全に“自分のものにした” という実感を求めていたからです。いうなれば《前奏曲集》が自分の潜在意識に染み込 むまで、待ち続けたのです。それは、誰かと友情を育むことと、どこか似ているのかもしれ ません。いずれにせよ、録音スタジオの扉を開ける準備が整ったのです。レコーディング は、じつに幸せな体験でした!
RkJQdWJsaXNoZXIy NjI2ODEz